
EC運営にSECI理論を活かす ― 経験を会社の財産に変える方法
新年度になり、会社やチーム内で新入社員や部署移動が多い季節になりました。
私もEC事業を運営する会社を訪問してコンサルティングを行なっていると、EC担当者の入れ替わりの挨拶や新しいスタッフさんが入られることも多いです。
MTGをしていると、スタッフさんそれぞれのこれまで経験によって蓄積されてきた経験則によってうまく運営しているケースも多いです。
例えば受注管理でイレギュラーな注文が入った時の対応方法は、ベテランスタッフがいる時はうまく回るのに、別のスタッフでは同じようにはいかないなど。普段、スタッフ同志でコミニュケーションはあるものの、なかなかマニュアル化することができないような秘伝のタレ的なノウハウを共有できるといいのにと思います。
今回は、この「背中を見て覚えろ」という職人気質のベテランスタッフの持つ「秘伝のタレ」を、新人スタッフでも同じことができ、チーム全体としての力を上げていく方法を考えていきます。
- . EC運営にSECI理論を活かす ― 経験を会社の財産に変える方法
- 1. なぜ今、「知識共有」が経営課題になるのか
- 2. SECI理論とは?
- 2.1. ― 経験を組織の力に変える4ステップ
- 2.1.1. ① 共同化(Socialization)
- 2.1.2. ② 表出化(Externalization)
- 2.1.3. ③ 連結化(Combination)
- 2.1.4. ④ 内面化(Internalization)
- 3. EC運営会社での具体的な活用法
- 3.1. 共同化:ベテランの「空気」を新人に伝える
- 3.2. 表出化:その知識、言葉にできますか?
- 3.3. 連結化:知識と知識をつなげて“仕組み化”
- 3.4. 内面化:「やってみて、わかった」状態へ
- 4. 国内企業の事例:実際にSECIを回している会社
- 4.1. 無印良品
- 4.2. ヤッホーブルーイング
- 4.3. とあるEC系スタートアップ
- 5. 最後に 知識が“循環する会社”は強い
- 6. まとめ
なぜ今、「知識共有」が経営課題になるのか
EC市場は特に2025年は、EC市場の伸び率が鈍化し、EC業界内での競争が激化しています。
EC事業者の現場では、サイト更新、広告運用、商品開発、SNS…やるべきことが多岐にわたる中で、現場のオペレーションを支えるのは、まさに“人の知恵”です。
ところがその知恵、つまり経験値やノウハウの多くが属人化していないでしょうか?
- 社長や立ち上げ期からいる社員にしかわからない判断基準
- ベテランパートさんが体感でやっている“売れる商品写真の撮り方”
- お客様対応の「ちょっとした言い回し」が売上に影響する…
こうした暗黙のノウハウが、新人にうまく伝わらず、会社全体の成長スピードを鈍らせてしまう。
これは多くの中小EC企業が抱える“見えにくい課題”です。
そこで注目したいのが、日本の経営学者・野中郁次郎氏が提唱した「SECI理論」です。
SECI理論とは?
― 経験を組織の力に変える4ステップ
SECI理論(セキ理論)は、個人が持つ“暗黙知”を、組織の“形式知”として共有・発展させていくための考え方です。4つのステップがあります。
① 共同化(Socialization)
体験や空気感で学ぶプロセス。
→ 例:ベテランの横でOJTを受ける/現場での雑談・空気感から得られる学び
② 表出化(Externalization)
暗黙知を言語化・可視化する。
→ 例:業務マニュアル化/ブログやSlackでの気づき共有
③ 連結化(Combination)
形式知同士を結びつけ、体系化する。
→ 例:過去データ×現場知見で改善提案/全体マニュアルの構築
④ 内面化(Internalization)
学んだ知識を実践を通して自分のものにする。
→ 例:マニュアルを使って作業しながら“わかる”から“できる”へ
このサイクルを回すことで、会社のどこかに眠っていた知恵を“再活用できる資産”に変えることができるのです。
EC運営会社での具体的な活用法
では、実際の現場でSECI理論をどう使うのか?
いくつか実践的な例をご紹介します。
共同化:ベテランの「空気」を新人に伝える
- 商品登録をベテランと並んでやる
- パートさん同士で「うまくいった作業」を雑談で共有する文化を育てる
- 倉庫や現場での「小さなひらめき」こそ、最初の知識の種になる
表出化:その知識、言葉にできますか?
- 社長の頭の中にある「ウチらしさ」を動画や音声で記録しておく
- ベテランの作業を録画し、「暗黙知マニュアル」として社内で視聴
- Slackに「#今日の気づき」チャンネルをつくり、毎日の共有を習慣化
連結化:知識と知識をつなげて“仕組み化”
- 商品別・季節別のデータをNotionやGoogleシートで蓄積
- 接客対応の事例を整理して「クレーム対応虎の巻」を作る
- 定例ミーティングで知識の掛け算を生む場を作る
内面化:「やってみて、わかった」状態へ
- 動画マニュアルを見ながら新人が実際に商品ページを作成
- 成功事例の横展開を、小さなプロジェクトで実践させる
- 新人に“教える側”を経験させ、理解の定着を促す
フェーズ | 対応するSECI理論 | EC組織における活動例 | 組織開発のポイント |
---|---|---|---|
1. 共同化(Socialization) | 暗黙知 → 暗黙知 | ・成功したプロモーションの現場共有 ・朝会・1on1での気づき共有 | 心理的安全性とナレッジの「雑談の場」づくり |
2. 表出化(Externalization) | 暗黙知 → 形式知 | ・売れ筋分析ノウハウのマニュアル化 ・失敗事例の言語化 | 属人的知識を言語化・可視化する仕組み |
3. 連結化(Combination) | 形式知 → 形式知 | ・販促カレンダー × 商品DB × 広告データ統合 ・ナレッジ共有MTG | データ・情報・人の流れをつなぐIT環境整備 |
4. 内面化(Internalization) | 形式知 → 暗黙知 | ・ローテーション研修 ・OJTや実践で知識を体得 | 新人・中堅に「現場で学ぶ機会」を仕込む |
国内企業の事例:実際にSECIを回している会社
無印良品
現場の店舗スタッフからの声を商品開発に活かす仕組みがある。
→ 共同化 → 表出化の好例。
ヤッホーブルーイング
全社員が日報をSlackで共有。失敗談からの学びが、別チームの改善策に。
→ 表出化 → 連結化 → 内面化と循環。
とあるEC系スタートアップ
広告運用の成功事例を週1でLT発表。新人も「真似からの学び」が加速。
→ SECIが小さなチーム単位で自走する文化に。
最後に 知識が“循環する会社”は強い
売上が伸びている会社には、知識が巡る仕組みがあります。
ベテランだけが「なんとなく」やっている状態ではなく、新人やアルバイトまでが「なぜそうするのか」を理解して動ける。
経営者の皆さまにこそ、SECI理論を“組織強化の考え方”として取り入れてほしいのです。
知識は、シェアされて初めて価値になります。
そして、知識の共有が、文化になることで組織は強くなる。
まとめ
- SECI理論は、個人の経験を組織の財産に変える“知識創造の技術”
- 社長やベテランのノウハウを言語化・可視化し、全員で活用できる体制を作る
- 知識が自然に循環する仕組みは、強いECチームづくりの根幹になる
いかがでしたでしょうか?
ECチームの現場に活かしていただければ幸いです。
当社OMOKAJIでは、マーケティングなどのノウハウ面からEC人材育成、チームビルディングのお手伝いも行なっています。
御社のEC事業部や全社的な組織活性化の課題がありましたら、ぜひお気軽にご相談ください。
投稿者プロフィール

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ECサイトのデジタルマーケティングとDX推進を支援するコンサルティング会社で、WEB・ECサイトのコンサルティング、運用支援を行っています。
讃岐うどんとECが大好きな二児の父。好きな曜日は金曜日。